旅客営業規則(以下「旅規」)において、新幹線は、並行する在来線と原則的に同一の路線として扱うこととされています。(旅規16条の2第1項)ただし、新幹線単独駅等の前後の区間については、別線扱いとすることが定められています。(同条2項)この規定により、例えば、芦屋→新大阪→新神戸、といった経路の乗車券について、片道として発売できるようになります。(図1)新幹線の単独駅のある区間を並行在来線と同一路線として扱うと、当該駅の取扱いに不都合が生じるからです。
(図1)
また、並行在来線が第三セクター化、又は廃線となっている区間(九州新幹線の新八代~川内間等)については、単独路線として扱うことも定められています。(同16条の4)
16条の2 第2項の規定により、新幹線単独駅を含む区間は、在来線と別線扱いにすることとされているので、当該区間の在来線から分岐する路線への乗車券について、明文の規定はありませんが、当該単独駅を発駅、又は経由して、当該分岐路線への片道乗車券を発売できることになります。つまり、例えば、さきほど例に出した、新神戸を含む区間について考えてみると、次のような乗車券を片道で発券できることになります。200km以上の場合に適用される特定都区市内制度については、とりあえず無視します。
「新神戸→西明石→尼崎→福知山線方面」(図2)
(図2)
次に、いわゆる「折返し分岐の特例」について、考察してみます。「折返し分岐の特例」とは、分岐駅が主要駅ではなく、その近辺の駅で、特急列車等の優等列車が、当該分岐駅を通過する場合に、当該分岐線方面へ乗り換える旅客について、当該分岐駅から当該主要駅までの区間を折返して乗車することを認める特例です。当該折返し区間の運賃は不要です。
本来であれば、折返し部分が存在すれば、片道にならず、分岐駅~主要駅間を別途として往復の運賃を収受することになりますが、列車の停車駅の都合で通過しているので、折返しを認める、という趣旨です。ただし、折返し区間内での途中下車はできません。
これが認められる区間は、旅客営業取扱基準規程(以下「基準規程」)151条に列挙されており、この区間以外は認められません。大体、特急の走っている区間が該当しています。
例:「米原→山科(通過)→京都→福井」(図3)
(図3)
この2つが、組み合わさるとどうなるか、というのが、この記事での話題です。組み合わさ区間は、例えば、徳山~岩国間(新岩国駅があるため、別線になり、かつ、櫛ヶ浜~徳山間の折返し特例が存在する)などがこれに該当します。例に挙げた、徳山~岩国間などは、この2つの規定が競合して、ややこしい問題が発生する、ということはありません。なぜなら、新岩国駅を経由する場合は、山陽本線(又は岩徳線)と別線扱いとする、という旅規16条の2第2項の規定が適用されて、それで終了となるためです。(図4参照)
(図4)
ところが、これら2つ、すなわち、「別線扱い」と「折返し分岐の特例」が競合する区間、というのがあります、三原~広島間です。
なぜ、このような競合が発生するのか、というと、基準規程151の2、という規定が存在するからです。条文を引用すると、
「矢野以遠(坂方面)の各駅と三原以遠(糸崎方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線に乗車(広島・東広島間を除く。)する場合は、規則第16条の2第2項の規定にかかわらず、三原・広島間を同一の線路とみなして、広島・海田市間において、途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。」
この規定が意味するところは、東広島という新幹線単独駅が存在するので、本来であれば、旅規16条の2第2項の規定どおり、東広島経由の場合は、山陽本線と別線扱いとしなければならないところ、山陽本線と同一の線路とみなすことができる、ということです。
ただし、同一路線とみなしてよいのは、海田市で分岐する呉線内各駅と、三原以遠(糸崎方面)とを新幹線、及び広島経由で乗車する場合に限る、としています。(図5参照)
(図5)
なぜ、このような規定が存在するのかを考えてみます。結論からいうと、「折返し分岐の特例」との兼ね合いで出て来た規定です。海田市~広島間はこの適用があります。
ここで、この規定が無かった場合を考えてみると、さきほど、徳山~岩国間の例でみたように、新幹線単独駅、ここでは東広島駅、を経由し、広島駅を通って、山陽本線海田市、そこから呉線に入り、安芸幸崎まで行く、という場合、新幹線と山陽本線は別の路線なので、海田市~広島間の「折返し分岐の特例」は、関係がないことになります。単に順路通り、片道乗車券になるだけだからです。
しかし、東広島駅は、後から設置されました。(設置は1988(昭和63)年)同駅が設置されるまで、例えば、東京から、広島経由、安芸幸崎まで行く、という場合、「東京都区内→海田市→呉線」という片道乗車券を買い、新幹線で広島まで行って、折り返したとしても、海田市~広島間の折返し分岐の特例によって、同区間の運賃は不要でした。(図6)
(図6)
ところが、東広島駅が開業したことにより、この区間を乗るには、「東京都区内→広島→海田市→呉線」の乗車券を買うことになります。「折返し分岐の特例」が適用されなくなり、海田市~広島間往復分が実質的に上乗せされた距離で運賃計算をすることになり、区間によっては、従来より高くなります。(図7)
(図7)
これでは不都合が生じる、ということで、いわば「特例の特例」として、基準規程151条の2が規定されました。この規定があると、東広島駅は無視して、新幹線と山陽本線を同一路線とみなすことができるので、「東京都区内→海田市→呉線」という片道乗車券で、三原~広島間も新幹線に乗れ、海田市~広島間は、実際には新幹線経由なので通っていませんが、同条の規定に明記されているとおり、同区間の山陽本線に経由したものと擬制されます。「折返し分岐の特例」も適用され、同区間の運賃は不要です。よって、東広島駅の設置前と、設置後で、運賃が変わることはありません。(図5参照 )
(図5再掲)
しかしながら、基準規程151条の2をよく読むと、最後に、「できる」とあります。これは文字通り、「できる」のであって、必ず「しなければならない」わけではありません。このあたりの条文解釈は、行政法を学ぶとよくわかりますが、「できる」とある場合、同条を適用「しなくても」、なんら問題はありません。
この条文を適用すると、1つだけ不都合があります。それは、条文内に明記されているとおり、「途中下車しない限り」という制約があることです。つまり、これを適用すると、例えば、広島では途中下車できなくなります。
一方で、別線扱いを規定した旅規16条の2第2項だけを適用すると、広島は、経路上の駅なので、当然、途中下車できます。そうすると、広島で途中下車したい場合、基準規程151条の2は、適用したくありません。先述の通り、同条は、「できる」だけなので、適用しないことも可能です。そすると、「東京都区内→東広島経由→広島→海田市→呉線」という片道乗車券が買えることになり、広島でも、当然、途中下車ができます。(図8)
(図8)
そういうわけで、条文の解釈を終えたところで、みどりの窓口へ行きました。「東京都区内→安芸幸崎(広島経由)」を申し込むと、海田市経由、基準規程151条の2を適用した乗車券が出て来ます。なぜなら、マルスは、自動的に同条を適用するからです。しかし、これでは困ります。
そこで、「海田市~広島の特例を適用せずに」と言って、申し込みました。
立川駅の窓口氏は、わかりました、と言うと、「東京都区内→西条(広島経由)」と、「東京都区内→安芸幸崎(広島経由)」の2枚を出して、経由を見比べました。前者は、「広島」が明記されます。なぜなら、基準規程151条の2の適用対象外(西条は、呉線ではないため)だからです。しかし、後者は、「海田市」までしか入りません。
マルスの自動補正を解除してみたり、(いわゆる「補正禁止」)いろいろやっていましたが、マルス指令に問合せ、となりました。窓口氏は、「そんなことできません」とは言いませんでした。それで戻って来て、「規則上は、やはり発売できますが、機械でできないので、時間がかかります」とだけ言いました。それで、夜遅かったのもあり、できたら、電話してくれることになり、翌日受取りに行きました。
で、出て来たのがこのきっぷです。マルスではできないので、補充券です。JR西日本のPOS端末だと、補正禁止で対応できるようですが、それは試していないので、よくわかりません。呉線内の駅では、「広島で途中下車する」旨を伝えれば、さっと発券してくれるようですが、東京ではそうも行かず、という感じでした。
このときは、「瀬戸内マリンビュー」に乗って、しまなみ海道に行ってきました。その記事は、こちらでご覧ください。
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