連載企画:開示請求から連絡運輸範囲を知る(5)
ここまで考えてみて、諦めそうになりましたが、そういえば、社線の連絡運輸規則には、JRの連絡運輸規則を準用する旨を定めている例が結構あることを思い出しました。それとこの開示請求がどう関係しているかというと、鉄道営業法3条が間に入ります。
詳しく解説します。
まず、鉄道営業法3条は次の通り定めています。
「運賃其ノ他ノ運送条件ハ関係停車場ニ公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス」
鉄道営業法は文語体ですが、要するに、運送条件は、公告しなければならない、ことが定められています。明治時代にインターネットはありませんので、運送条件、つまり旅客営業規則の各種規則類は、駅において、少なくとも旅客が閲覧等を求めた際には開示しなけならない、もっと言うと、駅に掲示しておかなければならない、ということです。旅客営業規則の全文を貼り出すのは現実的ではありませんが、それを抜粋してわかりやすく書いたものが、どの駅にも掲示されています。
この「運送条件」には当然ながら連絡運輸規則も含まれます。更にいうと、その細則である旅客連絡運輸取扱基準規程も、その中に、旅客営業に関する運送条件が書かれているのであれば、少なくともその部分は、運送条件に含まれます。
したがって、そもそも基準規程は内規だから、というのは鉄道営業法3条に違反しているように前々から思っていますが、今のところ国土交通省鉄道局は問題視していないようです。国鉄時代からの慣例のようです。実際のところ、細則で定めるような細かいことまで公告の対象としなくてもよいだろう、という法解釈だと推測します。
少し逸れましたが、連絡会社が、その規則において、JRの旅客連絡運輸規則を準用する、と定めている場合、当該連絡会社に対して、連絡運輸規則を閲覧したい、と申し出られたときに、準用しているJRの規則も見られなければ、運送条件を公告したことになりません。
ということは、JRの連絡運輸規則類は、少なくとも準用規定を置いている連絡会社には周知されている可能性が高い、と考えました。
そこで、公営交通の連絡運輸規則類を片っ端から見ていきました。すると、東京都交通局に面白い規定がありました。「東京都地下高速電車連絡運輸規程」です。全部で8条しかないですが、その第8条には「準用規程」とあります。全文引用します。
「この規程に定めのない事項については、東京都地下高速電車旅客営業規程(昭和三十五年交通局規程第十号。以下「旅客営業規程」という。)、東京都地下高速電車身体障害者旅客運賃割引規程(昭和三十五年交通局規程第十一号。以下「身体障害者割引規程」という。)及び東京都地下高速電車知的障害者旅客運賃割引規程(平成三年交通局規程第百十五号。以下「知的障害者割引規程」という。)の定めを、この規程、旅客営業規程、身体障害者割引規程及び知的障害者割引規程の定めのない事項については、東日本旅客鉄道株式会社が定める連絡運輸に関する規則及び規程の定めを準用する。」
長いので必要な部分だけ抜き出すと、
「この規程、・・・の定めのない事項については、東日本旅客鉄道株式会社が定める連絡運輸に関する規則及び規程の定めを準用する。」となります。このうち、「東日本旅客鉄道株式会社が定める…【規程】」を準用する、の部分が最重要です。
「規則」の部分は、旅客連絡運輸規則で、これは公開されているので、どっちでもいいですが、【規程】の方は、旅客連絡運輸取扱基準規程を指すものと考えられます。
これは、基準規程を東京都交通局は保有しているのではないか、と先ほどの理論から考えました。
そういうわけで、東京都交通局長に対して、開示請求をかけてみます。
電子請求ができますので、ネットから開示請求書を提出して、数時間後に担当職員の方から電話がありました。早すぎます…
その内容は、「請求対象は、JRの規則ですが、JRに対して請求をするのではなく、当局が保有する、JRの規則を、当局に対して請求する、という趣旨で間違いないか」というものでした。変な請求をしているのは間違いないですが、探してくれることになりました。
2週間ほどして、期間の延長決定通知が来ました。東京都の情報公開条例では、請求から2週間以内に開示決定をすることになっていますが、その期間内に開示決定ができないときは、期間を延長できます。その通知です。延長期間は2か月でした。
開示請求の対象は、都以外のものが作成したものであり、その者の意見を聞く必要がある、というのが理由でしたが、ここでわかったことが1つあります。
それは、不開示ではなく、こういう理由で延長する、ということは、少なくとも東京都交通局は、JRの旅客連絡運輸取扱基準規程を保有している、ということです。やはり、配っているようです。
ちなみに請求対象とする文書として、「別表を含む」と明示してあります。この決定通知が来たのは、9月下旬でした。
2か月後の11月中旬、私は旅行で、北海道の紋別市にいました。そこはどっちでもいいですが、東京都交通局の担当職員の方から電話がありました。
「請求された文書の、開示決定が出ました。結論から言うと、全部開示なのですが、JR東日本に意見を聞いたところ、出さないでほしい、と言われておりまして、ただ、文書の内容を見ましたが、都の条例、その他の関係法令に照らしても、隠す理由が無い、ということで、全部開示になりました」
東京都交通局、なかなかいい仕事をされています。JR東日本が反対意見を出しても、隠す理由がない、と全部開示にするのはさすがです。法令に則った正しい取り扱いをする、理想的な行政機関です。
「都の条例によって、反対意見が出された場合は、出した者、つまりJR東日本が、開示決定を取り消してほしい、と訴訟を起こす可能性がありますので、猶予期間が設けられておりまして、それが2週間なので、実際に文書をお渡しできるのは今から2週間後になります。」とのことでした。
JR東日本からすれば、今まで「内規だから」と公開を断ってきた基準規程を、東京都交通局が開示しては困る、ということで反対意見を出したのだと思います。当然です。ただ取消訴訟までするかな、とは思いました。行政訴訟はそれなりに時間も手間もかかります。
いずれにせよ、訴訟提起がなされれば、裁判所から東京都交通局に連絡がいき、そのまま請求人である私のところにも連絡が来るものと思いましたので、とりあえず待つことにします。
2週間の期限が到来しても特になんの連絡もなかったので、仕事の合間を見て、半休を取り、都庁まで開示された資料を取りに行くことにしました。あらかじめデータでほしい、と申し出ていたので、CD1枚です。
郵送された開示決定通知には、枚数として、「19枚」とあり、これは別表、赤表紙は含まれていないな、と直感しましたが、「東日本旅客鉄道株式会社が定め、東京都交通局が保有する旅客連絡運輸取扱基準」が開示文書として記載されていましたので、少なくとも本文はあると思いました。
「規程」の2文字が入っていないのが少し気になりましたが、とにかくCDを受け取ってきました。
まずファイル名称が「47本営20140901旅客連絡運輸取扱基準規程」となっています。この時点で、少し古いな、と思いました。20140901の部分は恐らく、その当時のもの、ということでしょう。
内容を見ます。全部開示決定なので、黒塗りはありません。
題目は「旅客連絡運輸取扱基準規程」です。あれだけ、内規です、と公開されていなかった、基準規程の連絡運輸版が、全文開示されました。
ちなみに、インターネットでこうして公開していますが、東京都情報公開条例に基づく全部開示決定により出てきた公文書に該当するので、誰が請求しても同じものが出てきます。つまり公開しても法的に何ら問題はありません。
ここに東京都交通局から交付されたPDFを置いておきます。
ところで、先述した通り、まだ満足はできません。
・2014年9月1日現行のものと思われるので、少し古い。
・別表部分が載っていない
この2点です。古い、というのは、後ろのほうにある、幹事会社のJR北海道欄に、道南いさりび鉄道がないところ、北陸本線三セクもないところからもわかります。連絡運輸の基準規程は中を見ていると、旅客営業取扱基準規程が多々準用されているので、これも見たいです。上述した理論から、これも東京都交通局にあるのではないか、と思っています。
そこで、12月25日に追加の開示請求書を提出しています。請求対象は次の4点です。
・旅客営業取扱基準規程
・旅客連絡運輸及び旅客営業取扱基準規程別表
・連絡運輸管理規程
・旅客連絡運輸取扱基準規程のうち、2014年9月1日以降の改定がわかるもの(新旧対照表等)
これらが東京都交通局にあるか、あれば、今回と同様、JR東日本に反対されても、開示決定が出るでしょうし、出なければ、鉄道営業法3条を絡めた審査請求、取消訴訟などを要検討です。もちろん、東京都交通局には、これらの規則類はないかもしれません。
年末に、まずは大きな第一歩です。東京都交通局からなんらかの通知が来れば、また連載企画を続けます。
これまでの4回のリンクは次の通りです。
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運送条件について、重要なものを内規どまりで定めていることに、ずっと違和感を持っていました。
旅客営業取扱基準規程や、連絡運輸取扱基準規程別表は、以前は出版社から発売されていたものなのに、前者は10年、後者は35年最新のものが見られない状況です。
この請求が、旅客に運送契約を開示するきっかけになることを願っています。
応援しています。
投稿: きっぷマニア | 2023年1月 1日 (日) 21時02分
記事の続編を期待しています。全ての連絡運輸範囲が公開されることを期待しています。
>開示請求から連絡運輸範囲を知る(3)
>直近で、連絡運輸範囲の拡大がなされた(らしい)近鉄とJR東海に照準を合わせました。
>令和4年4月1日から、JR東海会社線内から近鉄への連絡運輸を取り扱う範囲が、JR東海全駅に拡大されたらしい、という話を聞きました。近鉄からJRへの連絡運輸となる場合は従来通りだそうです。
タイムリーな記事をありがとうございました。
名古屋-紀伊半島南部へ半年-1年に1回、定期的に出かける必要(多分、老衰で列車に乗れなくなるまで続く予定)があり、近鉄名古屋-松阪連絡-紀勢本線方面への連絡乗車券を買い続けていますがトラブルが多いです。
同じ経路(紀勢本線内の着駅が違うだけ)ばかり買うので、切符収集の趣味ではなく完全に実用使用です。
障害者手帳があると単独乗車の場合、連絡乗車券の起点から終点まで100キロを超えると、運賃が半額になります。
近鉄名古屋→松阪(100km以内で割引なし)
松阪→紀伊長島(100km以内で割引なし)
近鉄名古屋→松阪連絡→紀伊長島(距離の通算で100km超えて割引あり)
紀伊長島で更に別の連続乗車券を使用して目的駅→近鉄名古屋へ障害者割引を適用で戻るのですが、着駅が実家ある駅なので省略します。
起点-終点まで100キロを超える場合、連絡乗車券を買えるか買えないかは、運賃に倍の差が出るので・・・・内規だから見せられない。しかし、運賃には反映する。
運賃という運輸事業者と乗客との間の運送契約の根幹に関わる部分が非公開とは恐れ入りました(過去に非公開だと知っていて理不尽さを感じていたのです)。
有志のかたが作成した非公式の連絡範囲のサイトを参考にするしかなく、駅員への売れないという、サボタージュ(売り方が分からない&面倒だから売れないと言ってやれ)や、誤った発売条件(有効期限や下車前途無効の有無)なども多いです。
障害者割引の拡充の意見が行政評価事務所等に寄せられると・・・
「100キロ以下の障害者割引は国の補助でないと無理。だから現状の制度のままで」
のような回答(文面は私が書いたもの。論旨はこのようなもの)を何度か見ました。
現状は、非公開にして、障害者に利用させないように、する行為も含まれているのかな?。と、疑ってしまいます。
このように、連絡運輸の情報公開について不満をもっています。
健常者の場合と違い、連絡乗車券の発売の有無で、運賃が倍、変わることがあるので、旅行開始前に規定をネット等で閲覧して知る権利が乗客にはあると考えます。
下記はその事例で、近鉄名古屋の窓口には、苦労させられています。
近鉄名古屋-(近鉄)-松阪連絡-(JR)-新宮
売れないと断られた。しょうがないので新宮を尾鷲までにしたらASUKA端末に運賃が出たので買えた。途中のJR松阪駅で、本当に新宮まで売れないかを調査依頼→最終的に新宮駅で新宮までの連絡券の料金で精算(乗越ではなく最初から新宮までの値段)。
近鉄にクレームしたら近鉄名古屋駅の助役から売れたのに駅員の知識不足で売らなかったと謝罪の電話あり。
(助役氏の説明では、ASUKA端末では連絡駅からJR線の営業距離が100キロ以上は発券できないので売れないものと勘違いした)
同じものを翌年購入。スムーズに手書きの券で発券。
しかし・・・・
近鉄名古屋-松阪連絡-紀伊長島 窓口氏。売れないという回答。
<この様な問答が何度もあるので、過去に売った手書き乗車券や逆方向のJRマルス券のコピーを見せる>
証拠を見せると観念して、売れないを撤回して「手書きになるので、時間がかかります」
私「ASUKA端末で出せるはず(連絡駅から100キロ以内はASUKA端末発券できるという助役の回答の件を述べて)。調べろ。と言ったら、渋々調べて、ASUKA端末をイジっていたが、操作方法が分からないようで出せなかったようです。。。。。
運賃改定か何かの都合でASUKA端末では出せないので再度、手書きになる(操作未熟?)。で、手書き券で発行されたが・・・
2箇所の間違いが重なった激レア(最悪な?)の手書き券が出てきた。マニア的には有り難いのでしょうか?。
当日限り有効(誤記で2日間では?)、近鉄船内下車前途無効の記載漏れ(JR区間途中下車OK)により、予め手書き券の裏面に印刷している下車前途無効がJR線内も有効化されてしまう。
発券に慣れていない故、売れないと、窓口氏は必死に抵抗したのでしょう。
結論
窓口氏に売れないと必死に抵抗されると、障害者割引が使える者にとっては運賃が倍になります。
売れる根拠が、非公式の善意の個人のサイトでは、抗弁できないことになるので公開されることを期待しています。
JR東日本は範囲縮小されるようです。東海と真逆ですね。
ブログの記事の引用ですが、連続乗車券で安くなるのを、知らない&隠されているので反対も出来ないのでは?。
以下、「続・吾輩はヲタである」の2023-02-17の「首都圏エリア連絡乗車券発売縮小」のブログの引用です。
>第1種および第2種の身体障害者・知的障害者が一人で利用して運賃の割引を受けようとする場合、JR・社線の通算の営業キロ数100Km以上という条件が必要だが、連絡運輸の縮小によってその条件が厳しくなる
JR・社線の通算の営業キロ数101Km以上あると経路上で途中下車ができる(JR線が東京近郊区間内完結の場合は除く)が、連絡運輸の縮小によってその条件が厳しくなる。
2番目はヲタの願望なのでともかく、1番目については実際困る人も出てくるでしょうから、何とか手当てできないもんですかね?障害者の側から声が上がれば変わるような気もしますが。
投稿: 障害者割引対象者 | 2023年3月 1日 (水) 01時34分