連載企画:開示請求から連絡運輸範囲を知る(2)
前回の最後で、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」といいます)に基づく開示請求について触れましたが、ここで、この開示請求について、詳しく見ていきます。もはや、きっぷのブログではなく、行政法の解説になっていますが、この連載の重要な部分なので、飛ばすわけにはいきません。
情報公開法は、平成11年に制定された比較的新しい法律です。行政の透明化の一環で、それまで一部の地方自治体において、情報公開条例が個別で制定され、その保有する情報を公開する手続きが整備されている例はあるものの、国の行政機関が保有する情報を公開するための法律は整備されておらず、これを整備し、政府の活動を広く公開することを目的として制定されました。
沿革はさておき、情報公開法の対象となる行政機関は、同法第2条第1項で規定されており、詳しく条文は引きませんが、要するに、一般社会通念上でいうところの、政府諸機関です。例えば、○○省、○○庁、その地方支部局がこれにあたります。今回は直接関係ありませんが、独立行政法人は、対象外で、別途独立行政法人の保有する情報の公開に関する法律で定められています。
次に、公開の対象となる情報はなにかを見ていきます。ここは重要です。
政府の保有する情報、といってもその大半は、文書です。第2条第2項で、「行政文書」と定義されています。条文の一部を引きます。
「「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(中略)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。」
下線を引いた部分が重要です。職務上取得していれば、行政機関が作成した文書でなくとも、公開の対象となります。
では、公開の対象となる文書を見たいときにはどうするか、というと、行政機関に対して、「開示請求」を行なうことになります。第3条において、開示請求権が定められ、「何人も」行政文書の開示を請求することができる、とされています。この「何人も」の部分も重要で、要するに、国民であろうが法人であろうが外国人であろうが、誰でも開示請求できる、という趣旨です。誰でも開示請求できるので、請求した結果出てきた文書を、例えばインターネットで公開したとしてもなんの問題もありません。請求して開示決定が出れば、誰でも見られるものですから。よく報道機関が、黒塗り文書が出てきました、といって行政を批判していますが、あれはこの開示請求を行なっているわけです。開示決定、という用語については後で説明します。
開示請求の手続きは、そう難しいものではなく、手続き自体は第4条に書かれていますが、要するに、住所氏名と、請求した文書が特定できるような事項を紙に書いて、行政機関の長に提出するだけです。行政機関の長、というのは、例えば国土交通省本省であれば、国土交通大臣、地方支部局であれば、その部長局長、例えば、関東運輸局であれば、関東運輸局長、となります。
開示を請求したら、その内容が審査され、書かれた事項だけで文書が特定できなければ、補正、と言って、文書を特定できるように書き直し、という手続きを経て、特に補正の必要がなければ、そのままで、開示決定が出されます。開示決定には、5種類あり、全部開示、一部開示、不存在、不開示、存否応答拒否の5つで、要は、請求に対する行政機関の回答です。
一部開示や、不開示、というのが存在するのは、当然ながら、行政機関の保有する情報であれば、なんでもかんでも開示します、というわけにはいかないので、公開できる部分だけ公開する、一切公開できないので、非公開、ということです。当たり前の話ですが、警察庁警備局の保有する情報だから開示せよ、と公安のトップシークレットを請求しても開示されません。先ほど述べた黒塗り文書、というのは一部開示決定です。開示できない部分は黒く塗りつぶして開示されます。余談ですが、ほとんど真っ黒で出てきた文書を、海苔弁と言うこともあります。
最後の存否応答拒否、というのは、当該行政文書があるかないかを答えるだけで、例えば個人の情報が漏れる、とか外交機密が漏れる可能性がある場合に使われるもので、行政法の教科書などではよく、病院のカルテ、が挙げられています。公立病院であればそのカルテも開示請求の対象になりますが、個人の情報が含まれているので不開示とすべきところ、不開示決定を出してしまうと、少なくともカルテは存在する、ということがわかる、つまり、何の病気で、どういう症状にあるかはわからないが、その人がその公立病院に入院している、あるいは通っている、要するになんかの病気だ、ということがわかってしまうので、あるかないかすら答えられません、というのが存否応答拒否です。
公安のトップシークレットや病院のカルテを例に出しましたが、不開示になる文書というのは、第5条で列挙されています。いわゆる個人情報や、公安外交防衛情報などがこれに当たり、細かく規定されていますが、今回関係しそうなところだけ抜粋します。第2号が該当します。条文を引きます。
二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
ロ 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの
行政活動は、当然、一般の民間企業に対して、指導をしたり規制をしたり、あるいは、企業から、なんらかの届出を受けたり、許認可申請をされたり、ということを含んでいます。これらも行政機関の職員が職務上取得した情報にあたるので、開示請求の対象にはなりますが、特に許認可申請等の場合は、いわゆる企業機密が含まれていることも多々あるので、これをなんでもかんでも公開してしまうと、当該企業の正常な業務運営を妨害することになりかねません。ライバル企業が今なにを開発していて、その構造はどうなっているのか、といった、通常企業が公表していない情報について、行政機関が公開するわけにはいきません。
そういったことが規定されているのがこの第2号です。
情報公開法の解説は大体終わりましたので、本題に戻ります。もっと詳しく知りたい方は、法律の本文を読んでみてください。最近の法令はわかりやすく書かれていますので、読めば大体のことは理解できます。
では、本題です。鉄道会社が他の鉄道会社、もしくは運輸機関と連絡運輸に関する協定を締結しようとするときは、鉄道事業法第18条、及び鉄道事業法施行規則第36条に基づき、国土交通大臣に対して必要な届出をしなければならない、ということは前回述べました。
届出を提出するのは、これらの条文では国土交通大臣、とされていますが、鉄道事業法第64条と鉄道事業法施行規則第71条の規定により、その権限は、地方運輸局長に委任されていますので、連絡運輸に関する届出は、地方運輸局長に対して提出することになります。
これらの届出は、行政機関、この場合は地方運輸局の職員が職務上取得した文書にあたるので、情報公開法に基づく開示請求の対象になります。
しかし、鉄道会社という法人に関する情報なので、開示請求をしたとしても、不開示になる可能性がありますし、届出は永久保存ではなく、5年の保存期間を経て廃棄されるものなので、廃棄されていれば、不存在、となる可能性もあります。
また、前回も少し述べましたが、協定書本体、もしくは地方運輸局に提出する届出本紙に連絡運輸範囲に関する記載がなく、連絡運輸範囲は、あくまで鉄道会社同士の内部で取り決める事項であって、それを変更する都度、地方運輸局に届出をしているわけではない、ということであれば、そもそも地方運輸局は、連絡運輸範囲に関する情報を持っていないことになるので、いくら開示請求をかけてみたところで、それを知ることはできない、ということもあり得ます。
今回はこのあたりにしておきます。次回、実際に地方運輸局長に対して開示請求をかけてみます。
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